disease
疾患・治療概要

大動脈疾患

大動脈瘤について

 大動脈瘤は、大動脈の一部が異常に膨らむ病気です。大動脈は心臓から全身に血液を送る主要な血管で、この部分が瘤(こぶ)状に膨らむことで、大動脈壁が薄くなり破裂のリスクが高まります。正常の大動脈は20~25mm程度ですが、1.5倍以上に拡大すると動脈瘤と定義されます。大動脈瘤は主に腹部に発生しますが、胸部にも起こることがあります。

症状:
 大動脈瘤は初期には無症状であることが多く、進行すると圧迫症状や血管が破裂することで症状が現れることがあります。腹部大動脈瘤の場合、腹部や背中に持続的な鈍痛を感じることがあります。胸部大動脈瘤の場合、胸痛、背部痛、咳、呼吸困難などの症状が出ることがあります。大動脈瘤が破裂すると、激しい痛み、血圧の急降下、意識喪失といった急性症状が現れ、緊急治療が必要となります。

原因とリスク要因:
 大動脈瘤の主な原因は動脈硬化で、血管の壁が硬くなり弾力性を失うことにより発生します。高血圧もリスクを高める要因です。また、喫煙、高齢、男性、家族歴、マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群などの遺伝性疾患もリスク要因とされています。

診断:
 大動脈瘤の診断は、画像検査で行います。腹部エコー、CTスキャン、MRIなどが用いられます。これらの検査により、大動脈瘤の大きさ、位置、形状を詳しく評価します。

・治療:
 通常は無症状でも50~55mmになると破裂予防を目的に治療介入となります。治療には観察と外科的介入の二つのアプローチがあります。小さな大動脈瘤は、定期的な検査で経過観察し、生活習慣の改善や血圧管理で進行を防ぎます。大きな大動脈瘤(50~55mm)や拡大スピード早いもの(5mm/年の拡大)は、破裂リスクが高いため、手術が検討されます。手術には、人工血管置換術とステントグラフト内挿術の二つの方法があります。
 また大動脈瘤の形態によっては、50mm未満でも破裂リスクが高いこともあるため、その場合は手術を勧めさせていただくこともあります。

予防と管理:
 大動脈瘤の予防には、リスク要因の管理が重要です。具体的には、禁煙、血圧管理、健康的な食事、定期的な運動が推奨されます。特に家族歴がある人や高リスクの人は、定期的な検査を受けることが大切です。
 大動脈瘤は適切な管理と治療により、破裂のリスクを大幅に減らすことができます。早期発見と定期的なフォローアップが重要です。

動脈瘤形態(http://stentgraft.jp/general/topic01/page_2.html)

大動脈解離について

 大動脈解離は、心臓から全身に血液を送る主要な血管である大動脈の壁が内膜に亀裂が入る重篤な病態です。大動脈の壁は内膜、中膜、外膜の三層構造になっており、大動脈解離では内膜に亀裂が生じ、血液が中膜に侵入します。これにより、真腔(もとの血液の流れる空間)と新たに形成された偽腔(解離によって生じた空間)という二重構造が発生し、大動脈の正常な血流が障害されます。

症状:
 急性大動脈解離の症状は突然の激しい胸痛や背中の痛みで、しばしば「裂けるような痛み」と表現されます。痛みは下肢や腹部に広がることもあります。その他、失神、呼吸困難、血圧の低下、脳卒中様症状なども現れることがあります。症状の発現は迅速であり、迅速な診断と治療が必要です。

原因とリスク因子:
 大動脈解離の主な原因は高血圧で、他にも動脈硬化、先天性結合組織疾患(マルファン症候群やエーラス・ダンロス症候群など)、外傷、大動脈瘤の存在がリスクを高めます。また、喫煙もリスクを増加させる要因とされています。

診断と治療:
 診断は通常、CTスキャン、MRI、経食道心エコーなどの画像検査で行います。治療には、薬物療法と外科的治療があり、急性期には血圧を管理し、外科的介入が必要な場合があります。外科的治療には、大動脈置換術やステントグラフト治療が含まれます。偽腔が拡大して破裂のリスクが高い場合や臓器の血流が障害されている場合には、緊急手術が必要です。

スタンフォード分類:
 大動脈解離は、スタンフォード分類によって2つのタイプに分類されます
①スタンフォードA型: 上行大動脈(心臓から出て最初の部分)に解離がある場合を指します。このタイプは緊急手術が必要とされることが多く、治療が遅れると生命に関わる危険性が高いです。
②スタンフォードB型: 解離が上行大動脈を含まず、下行大動脈以下に限定される場合を指します。このタイプは内科的治療が主であり、血圧管理が中心となります。

スタンフォード分類(2020年改訂大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン)

予後と管理
 大動脈解離の予後は、早期診断と適切な治療に依存します。治療後も定期的なフォローアップが必要であり、血圧管理が重要です。また、生活習慣の改善(禁煙、適度な運動、健康的な食事)も予後の改善に寄与します。
 大動脈解離は迅速な対応が求められる緊急疾患であり、症状が現れた場合には直ちに医療機関を受診することが重要です。

腹部大動脈瘤について

定義と重要性
 腹部大動脈瘤(Abdominal Aortic Aneurysm、以下AAA)とは、腹部大動脈が異常拡張した状態です。動脈壁の弱化が一番の原因であり、経時的に拡大していきます。破裂すると命に関わる大量出血を引き起こすため、早期の診断と適切な治療が極めて重要です。

原因とリスク要因
 AAAの発生の多くは、加齢が主な原因となります。これに加え、遺伝的要因、喫煙、高血圧、動脈硬化などがリスクを高めることが知られています。特に喫煙はAAAのリスクを著しく増大させる最大の単独リスク因子であり、喫煙者は非喫煙者に比べてAAAを発症する確率が最も高いと報告されています。

症状と診断
 多くの場合、拡大による自覚症状を伴わずに進行しますが、大きい瘤による腹部、背中や腰部に痛みを引き起こすこともあります。診断は主に超音波検査やCTスキャンを用いて行われ、これにより瘤の存在と大きさが確認されます。早期発見が重要であるため、高リスク症例の定期的なスクリーニングが推奨されています。

合併症
 最も重大な合併症は瘤の破裂です。瘤が破裂すると、周囲の組織への圧迫や内出血を引き起こし、救命のために緊急手術が必要となります)。

腹部大動脈瘤に対する手術(人工血管置換術、EVAR)

手術の目的
 治療は破裂予防が目的です。薬剤による治療はできないため、手術が選択されます。一般的に、5〜5.5cm以上に大きくなると破裂の危険性が高くなるため、手術適応となりますが、特に大きな瘤や急速に拡大している瘤には、破裂リスクが高いため早めの対応が必要です。手術方法は人工血管置換術とステントグラフト内挿術(EVAR)があります。

1. 開腹手術(人工血管置換術)

 この方法は、昔から施行されており破裂予防効果が最も高い手術になります。
 全身麻酔や手術への耐術能が許容されれば基本的にすべての動脈瘤に適応することができ、特に大きい瘤や複雑な位置にある瘤(腹部分枝に絡んだ形態)に適しているとされています。全身麻酔をかけて、開腹(腹部をみぞおちから臍下まで切開、約20cm程度)をおこない動脈瘤を切除し人工血管に置換します。手術時間は3~4時間くらいで、手術死亡率は1~2%程度となります(症例ごとのリスクによって異なります)。術後2週間程度で退院となります。確実な予防効果と遠隔期成績のよさがある反面、術後疼痛、腹壁瘢痕ヘルニア、感染症、出血、男性機能障害などの合併症リスクが含まれます。
 術後に特に内服するものは不要になりますが、遠隔期の吻合部破綻の可能性もあるため定期的なCTフォロー(術後に最低限1年ごと)は必要となります。

腹部大動脈瘤

動脈瘤を切除し人工血管で置換した状態

2. ステントグラフト内挿術(EVAR)

 EVARは大動脈瘤の新しい低侵襲治療法として2006年より日本において薬事承認を受け開始となった新しい治療法で、現在では主流の治療法になっています。ステントグラフト(下図、様々なデバイスがあります)は、形状記憶合金の「ステント」を人工血管「グラフト」の骨格として合わせた形ものです。
 このステントグラフトを動脈瘤の内側にカバーするように展開することで破裂予防をします。鼠径部(足の付け根)の皮膚を穿刺して手術を行う(血管性状が不良の場合は皮膚切開することもあります)ことで、従来の開腹手術と比較して非常に低侵襲になり、高齢者や耐術能が低下した患者さんに対して特に適しています。

ステントグラフト一覧

 手術は、全身麻酔(全身麻酔リスクがある症例では局所麻酔と寝る薬を併用した低侵襲麻酔を行うこともあります)をかけて左右鼠径部からカテーテルを挿入して、X線透視下でステントグラフトを確認しながら動脈瘤内側に複数本使用してカバーしていきます。手術時間は1~2時間程度(複雑症例は時間が長くなります)で、手術死亡率は1%程度となります(症例ごとのリスクによって異なります)。術後早期より飲水、食事が可能となり、手術による痛みも少ないため、術後の体力低下も少ないことから術後1週間程度で退院が可能です。特に退院直後からの生活は元の生活に戻ることも可能となりました。

 低侵襲による従来の痛みの軽減や回復の早さは非常に良い点ですが、動脈瘤が残存しているため遠隔期に漏れが原因の再治療の可能性や開腹人工血管置換術と比較すると遠隔期での成績がやや劣るとされています。術後に特に内服するものは不要になりますが、漏れ(エンドリーク)による瘤の再拡大の可能性があるため定期的なCTフォロー(術後3、6、12か月、以後は1年ごと)が必要となります。

ステントグラフト手術の流れ

ステントグラフト手術例

EVARの課題

 EVARは非侵襲的な手術方法であるものの、いくつかの問題点が存在します。
 主な問題点はエンドリークです。エンドリークとは、ステントグラフトが完全には動脈壁に密着せず、その間から血液が漏れ出る現象を指します。

エンドリークの分類
 エンドリークは原因により分類されます:
 タイプI:ステントグラフトの上端または下端に発生。
 タイプII:大動脈の分枝血管からの逆流。
 タイプIII:ステントグラフト自体の破損や連結不全。
 タイプIV:ステントグラフト自体の多孔性による漏れ。
 タイプV:ステント内の圧力が原因で漏れが持続する状態。

 EVARにおける全体のエンドリーク発生率は約20%と報告されており、これがEVARの長期成績に重要な影響を与えていると最近は報告されています。

EVARの今後の進歩

 EVARの技術とデバイスは絶えず進化しており、エンドリークの問題を減少させるための以下のような取り組みが進んでいます。

 1.デバイスの改良
 ステントグラフトのデザインと材質の改良により、より良い大動脈壁への適合性と耐久性を求めたデバイスの進化などがあります。
 2.術中の工夫
 画像診断の向上により、より正確なステントグラフト留置が可能となったことで、エンドリーク低下につながっている。
 術中に瘤内枝を塞栓することで術後のエンドリーク低下を得ることができ、遠隔期成績向上につながってきている。
 3.長期フォローアップとデータ収集
 患者さんのフォローアップとデータの収集を通じて、手術方法の改良が日々行われています。

エンドリーク分類(2020年改訂版大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン)

人工血管置換術とEVARの比較

下肢動脈疾患

下肢閉塞性動脈硬化症について

1. 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)・末梢動脈疾患(PAD)・下肢動脈疾患(LEAD)

 高血圧・糖尿病・高脂血症・喫煙などの背景を抱えていると、徐々に動脈が傷んで血管壁にコレステロールやカルシウムが沈着して血管が狭くなる動脈硬化が起こります。これにより血流障害を来たした状態を下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)・末梢動脈疾患(PAD)・下肢動脈疾患(LEAD)などと呼びます。LEADが最新のガイドラインで提唱されている最も新しい概念です。
 LEADには重症度があり、それを分類したものがFontaine分類です(図1)。無症状からはじまり、歩くと太ももやふくらはぎがだるくなったり痛くなって休まないと歩き続けられない間欠性跛行、安静時にも足の痛みがあり夜眠れなくなる安静時痛、足に傷ができて治らない潰瘍や壊死、という風に症状が悪化していきます。

Fontaine分類

2. 慢性包括的下肢虚血(CLTI)

 Fontaine分類でIII度以上、つまり安静時痛や足に傷がある状態を慢性包括的下肢虚血(CLTI)と呼びます。
 CLTIになると、血流を改善しない場合、数年以内に足首より上での下肢切断になる可能性が高いことが知られています。日本国内では下肢の血流を改善する治療(血行再建)を専門的に行っている医師が不足していることもあり、下肢が温存可能な場合でも安易に下肢切断が行われています。下肢を切断して義足を装着したほうが早期に歩行可能となる、というような説明がなされることもありますが、一般的に下肢切断の対象となる外傷・感染・糖尿病性壊疽の場合とはCLTIの患者さんは年齢・体力・病態が全く異なります。断端が壊死して追加切断になることも多く、下肢を切断すると生存期間が短くなり多くの患者さんが1年以内に亡くなってしまうことがこれまでの研究で示されています。
 当院では、下肢切断の回避により健康寿命を延長して1日も長く生きていただくため、足の血管センターという形で多科・多職種合同での集学的治療により下肢温存を目指しています。当科ではバイパスを主とした血行再建手術とカテーテル治療を組み合わせた血行再建治療を提供し、国内トップレベルの症例数を治療しています。

下肢閉塞性動脈硬化症の治療

1. 保存的治療法

 下肢閉塞性動脈硬化症に対する治療の基本は以下の3つです。
  1. 禁煙
  2. 薬物療法(抗血小板薬=血液サラサラの薬、抗脂質薬=コレステロールの薬 等)
  3. 運動療法

 これらの治療を一定期間行った上でも日常生活に支障が出るレベルの間欠性跛行(足が疲れて長距離歩行できない)が続いたり、安静時にも痛みがあったり足に傷がある患者さん(慢性包括的下肢虚血:CLTI)が血流を改善する治療(血行再建)の適応になります。
 日本国内には残念ながら血管に狭いところがあるという理由で軽症の間欠性跛行の患者さんに治療を進めるような医療機関もありますが、血行再建には常にリスクがあるため、そのような患者さんへの血行再建はあらゆるガイドラインで推奨されていません

2. 血行再建治療

 血流を改善する治療(血行再建)には大きく分けてバイパス手術を主とした血行再建手術とカテーテルを用いた血管内治療に分けられます。
 腹部血管・大腿部の病変ではカテーテル治療が、鼠径部・膝下の病変では血行再建手術が標準的な治療とされています。本邦では血行再建手術が施行できる施設に比べてカテーテル治療を行っている施設が圧倒的に多く、本来はカテーテル治療をするのがガイドライン等でも望ましくないとされている鼠径部や膝関節の病変においても積極的にカテーテル治療が行われています。そのような患者さんの中には、そもそも血行再建は不要で投薬や運動療法で経過をみた方が良い患者さんも多く、不要なカテーテル治療を受けたことで最終的に血流が治療前よりはるかに悪くなり、残念ながら下肢切断になる患者さんも多くいらっしゃいます。当科でもカテーテル治療は数多く行っており、カテーテル治療そのものが悪いわけではありませんが、日本の多くの医療機関で適切な方針決定がなされない(手術ができる外科医がいない)ことが問題になっています。
 当科ではあらゆる方法での血行再建が可能ですので、それぞれの患者さんの血管病変・持病や体力・生活背景などすべてを考慮して治療方針を検討しています。

2-1. 外科的血行再建手術

 皮膚を切開して血管を露出し、血流を改善する手術です。
 病変部分を迂回する側副路を作成するバイパス手術が主ですが、その他に血管内腔を占拠して血管を狭窄させている血栓を血管の内膜ごと除去する血栓内膜摘除手術や血管を部分的に切開して縫い合わせることで血流を改善する血管形成術などがあります。
 特にCLTIの患者さんでは膝下にある3本の血管(下腿三分枝)が全て閉塞した下腿三分枝閉塞の患者さんが多く、下腿の閉塞病変はカテーテルがあまり有効ではないため、バイパス手術が最も有効であることがこれまでの研究で示唆されています。
 一方、間欠性跛行の患者さんでは閉塞部位によって痛くなる部位が異なることが多く、腹部血管~鼠径部の病変では大腿部が、大腿部の病変では膝下が痛くなることが知られています。これらの患者さんではカテーテルが有効なケースが多く、近年では股関節を除いた膝上の病変に対してはカテーテル治療が標準治療となっています。ただ、大腿部の病変の中にはカテーテル治療が不向きの患者さんもおり、特に高度な石灰化や閉塞を伴う長い病変は依然としてバイパス手術が望ましいケースもあります。
 当科ではあらゆる血行再建を施行していて得手不得手もありませんので、患者さんごとに最適な治療をご提案しています。

2-2. カテーテル治療

 血管を針で刺して、その穴を通して様々なカテーテルを血管内に挿入し、ガイドワイヤーという針金で病変を通過させ、ガイドワイヤー越しに風船(血管拡張バルーン)やステント(形状記憶合金でできた金網)などを血管内に挿入して血管を拡張します。
 手術と比較して体への負担が小さく、合併症が少なく入院期間が短いのが長所です。
 当科ではスケジュールにもよりますが、通常1-2泊で治療を提供させていただいております。全身麻酔やブロック麻酔などの高度な麻酔が不要なため、体力が低下している患者さんにも施行可能です。
 また、バイパス手術のために採取できる静脈がない患者さんの場合、カテーテル治療しか治療の選択肢がない場合もあります。一方で、長期的には再狭窄を来たすため繰り返し治療が必要となったり、ステントなどの人工物が閉塞すると治療前より血流が悪くなって下肢切断になるリスクなどがあります。また、病変が高度な場合には治療が失敗に終わることもあり、下肢切断が必要なほど治療前より血流が悪くなるケースもあります。
 カテーテル治療は従来治療が困難であった患者さんにも治療の道を開く画期的な治療法である一方で、あらゆる患者さんにとって最高の結果を提供できる万能薬ではないことは留意する必要があります。

2-3. 治療法の選択に関して

 血行再建手術とカテーテルのどちらが良い結果が得られるのかという議論は現在まで続いており、手術の方が血流改善効果や有効期間は良好である一方で、合併症や死亡率の低さなどの点でカテーテル治療が勝るということはほぼ結論が出ています。
 手術は技術的には大部分の患者さんに施行可能ですが、全身状態や併存症の問題でカテーテル治療しか現実的な選択肢がない患者さんも少なくありません。欧米の最新のガイドラインでも、患者さんごとに全身状態・血管病変・足の状態(潰瘍・壊死・感染の有無)を考慮して治療法を決めることが推奨されており、どちらかの治療法が良いという性質のものではありません。
 当科では手術・カテーテルともかなり複雑な治療に対応できる体制が整っています。また、できるだけ判断が偏ることなく質の高い治療を提供するため、全ての症例を科内で十分議論して治療方針を決定するようにしております。

その他動脈疾患

内臓動脈瘤について

 動脈瘤と言えば胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤をよく耳にしますが、血管があればどこでも動脈瘤を形成します。発症頻度は低いですが、腹部内臓の血管に動脈瘤を形成することがあります。例えば、脾臓にできる脾動脈瘤、肝臓にできる肝動脈瘤などがあります。他に、上腸間膜動脈瘤・腹腔動脈瘤、胃ならびに胃大網動脈瘤、胃十二指腸並びに膵十二指腸動脈瘤などもあります。内臓動脈瘤には分類されませんが、腎臓にできる腎動脈瘤も無視できません。これらの動脈瘤はサイズが小さくても破裂しやすく、いったん破裂してしまうと致死率が非常に高いです。
 専門性の高い疾患であり、早めに治療介入する必要があります。これらの疾患を指摘された場合は、早めに医療機関に受診してください。

赤矢印が膵十二指腸動脈瘤

静脈疾患

下肢静脈瘤について

 下肢静脈瘤とは、足の表面を走行している血管(静脈)に血液が逆流する病気です。そのために足の血管がコブ(瘤)のように膨らみます。本来、血液は静脈の逆流防止弁機構のおかげで、足から心臓に向かって流れます。この逆流防止弁が壊れると(弁不全)、足に血液が逆流してしまいます。
 弁不全の原因として、長時間の立ち仕事や肥満、衣類による圧迫、妊娠などの様々な要因が指摘されています。遺伝性に出現することもあります。
 下肢静脈瘤を放置すると足の見た目が非常に悪くなり、足のだるさ・むくみ・こむら返り(足のつり)・かゆみ等の症状を引き起こします。さらに悪化すると、足に色素沈着(茶色っぽい色素が皮膚に沈着)や潰瘍が出現し、
 治療に難渋することがあります。緊急性のある疾患ではありませんが、放置すると生活のQOLが低下するため、症状がある場合は手術することが望ましいです。

下肢静脈瘤

下肢静脈瘤に潰瘍を伴った状態

静脈弁

下肢静脈瘤に対する治療法

 治療法は以下のものがあります
  ①弾性ストッキングによる圧迫治療
  ②硬化療法
  ③ストリッピング手術・高位結紮
  ④血管内焼灼術・血管内塞栓術  の4種類があります。

 手術を希望されるのであれば、血管内焼灼術・血管内塞栓術が体への負担が少なく、ガイドラインで最も推奨されている方法です。局所麻酔で施行可能であり、通常片足15-20分で手術は終了します。術後すぐに歩行可能で職場復帰もできます。当院では基本的に日帰り手術で行っています。

レーザー焼灼用の機械(©2014 Integral Corp.)

レーザー焼灼術の実際